人類の健康と福祉の向上・学術文化の発展に向けて

お知らせ

  • 2023/9/4

    予防薬理学研究所学術集会 2023

    2023年9月2日(土)開催されました。
    (詳細は絵をクリックしてください)

  • 2023/3/9

    第2回米田幸雄賞及び学生奨励賞の授与

    第2回受賞者が決定し、受賞記念講演が執り行われました。
    (詳細は絵をクリックしてください)

  • 2022/4/7

    Current Molecular Pharmacology , Volume 14 - Number 2

    Bentham Publisher発行の国際誌「Current Molecular Pharmacology」誌の予防薬理学の特集号。米田理事長をはじめ多くの研究所員の発表が掲載されました。

  • 2020/7/1

    機能性表示食品を考える

    所長の伊藤文昭先生の特別寄稿を掲載しました。

Information

  • 04 Sep 2023

    Symposium2022

    It was held on 02 Sep in 2023

  • 07 Apr 2022

    Current Molecular Pharmacology , Volume 14 - Number 2

    Special issue of preventive pharmacology. Articles from many institute members, including President Yoneda, were published.

  • 01 July 2020

    Consider functionally labeled food

    A series of commentaries by the Directer Dr. Fumiaki Ito are available here.

  • 26 Apr 2020

    Publication of research paper

    The paper by our Directer Dr. Fumiaki Ito was published in Antioxidant.

コラム

予防薬理学のすすめ―認知症のリスクファクターである難聴の予防への挑戦―

摂南大学・学長 荻田喜代一
(元摂南大学薬学部薬理学研究室・教授)

「未病を治す」が病気の発症予防の原点です。未病とは、健康状態にあるが病気に向かっている身体又は心の状態をさします。西洋医学での健康と病気を二律背反事象と捉える考え方とは異なり、東洋医学では健康状態と病気を連続事象と捉え、検査値の異常などがみられる病気でなくても自覚症状がみられる状態を未病としています(図1)。未病の状態を早期に発見し、病気の発症を回避することが健康の維持には重要です。病気の治療薬には、根本療法や対症療法に用いる医薬品があり、多くの医薬品が対症療法に用いられるのが現状です。したがって、病気の発症予防のためには、未病の段階で用いる「モノ」を開発することが極めて重要です。本コラムでは、認知症のリスクファクターである難聴予防薬の開発への挑戦に
ついて紹介します。

国際アルツハイマー病会議(2017年7月)において、ランセット国際委員会から「認知症の症例の約35%が修正可能な9つのリスクファクターに起因すること」が報告されました。その因子として、高血圧、糖尿病、肥満、うつ病などとともに、難聴が挙げられています。さらに、予防できる因子のうちで、難聴が認知症の最大のリスクファクターであることが指摘されています(1)。ただし、先天性難聴や一側性難聴はこの限りではありません。加えて、近年の国内外の研究では、難聴のために、本来あるべき音の刺激による脳への情報が減少し、神経細胞の活動が抑制され、脳の萎縮を引き起こすことで認知症の発症に大きく影響する可能性が推察されています。これらの背景のもと、我々の研究グループは、難聴の発症機序を解明し、それらを阻止する化合物の探索に挑戦しています。

難聴には、伝音性難聴と感音性難聴があり、前者は外耳から中耳での音の伝播の障害であり、後者は内耳および神経系の障害により発症します。感音難聴は不可逆的であり、突発性難聴、加齢性難聴、薬剤性難聴などがあります。本研究グループでは、感音難聴動物モデルとして、音響外傷性難聴モデル(ジェット機の爆音のような強大音響を一過性に曝露した動物)および騒音性難聴モデル(地下鉄の走行音程度の騒音を慢性的に曝露した動物)を用いています。前者は突発性難聴を、後者は加齢性難聴、工場やコンサートなどでの慢性的騒音曝露による難聴が模倣できる可能性があります。音響外傷性難聴モデルを用いて、難聴治療効果を示す化合物を探索したところ、治療薬の候補としては、強力な抗酸化作用を持つ化合物(2)およびカルパイン(カルシウム依存性タンパク質分解酵素)の阻害薬(3)があげられます。しかしながら、現状の研究成果では投与時期や投与法が大きな課題となり、突発性難聴などの治療に資する医薬品の開発は混迷をきわめています。一方、騒音性難聴モデルを用いて、難聴予防効果を示す化合物を探索したところ、ポリフェノール類のクルクミン(ウコンの含有成分、4)、クロロゲン酸(コーヒー豆の含有成分、5)、レスベラトロール(ブドウの果皮、赤ワインの含有成分)が有用であることを発見しました。これらのポリフェノール類はいずれも抗酸化作用を示しますが、同様に抗酸化作用を有するカテキンには難聴予防効果がみられないことを明らかにしました。また、コンドロイチン硫酸が難聴を予防し得る結果も得られています(7)。これらの事実から、現在は、難聴予防には抗酸化作用に加えて他の作用が必要であるとの観点で研究を進めています。また、今回紹介した化合物は、いずれも広く使用され、その安全性が確認されていることから、難聴の予防を介した認知症の予防に貢献することが期待されます。

認知症のような不可逆的な病気においては、発症の予防が極めて重要です。病気に対する予防薬の開発とその作用機序を解明する『予防薬理学』の発展が人生100年時代の健康寿命の延長に大きく貢献することを強調して稿を終えます。

1.Livingston et al, Dementia prevention, intervention, and care. Lancet 390(10113):2673-2734, 2017.
2.Yamaguchi et al. Disruption of ion-trafficking system in the cochlear spiral ligament prior to permanent hearing loss induced by exposure to intense noise: possible involvement of 4-hydroxy-2-nonenal as a mediator of oxidative stress. PLOS ONE, 9(7):e102133, 2014.
3.Yamaguchi et al. Calpain inhibitor alleviates permanent hearing loss induced by intense noise by preventing disruption of gap junction-mediated intercellular communication in the cochlear spiral ligament. Eur. J. Pharmacol. 803:187-194, 2017.
4.Yamaguchi et al. Preventive effect of curcumin and its highly bioavailable preparation on hearing loss induced by single or repeated exposure to noise: A comparative and mechanistic study. J. Pharmacol. Sci. 134:225-233, 2017.
5.三羽尚子ら、クロロゲン酸は反復騒音曝露による聴力損失を改善する。次世代を担う創薬・医療薬理シンポジウム2017、2017年
6.昌原杏子ら、反復騒音曝露誘発性聴覚障害に対するレスベラトロールの内耳保護効果。日本薬学会139年会、2019年
7.山口太郎ら、反復騒音曝露誘発性聴覚障害に対するコンドロイチン硫酸の効果。日本薬学会第139年会、2019年

20200919 #0002

特別寄稿

機能性表示食品を考える(連載)
 所長 伊藤 文昭(摂南大 名誉教授)

 ドラッグストアで健康食品・サプリメントを購入した経験があると思いますが、商品選択は難しいです。商品パッケージの文面を見たり、日頃の広告でお馴染みの商品を購入することになるのでしょうか?
 
 パッケージには「機能性表示食品」や「特定保健食品」といった表示があり、気づかれた方も多いと思います。この表示は、その商品の安全性や機能性がどのように証明されたかを示しており、非常に重要な情報であり十分な知識をもつことが必要です。
 
 本連載「機能性表示食品を考える」は、健康を増進させるため健康食品・サプリメントの活用を考えている方を対象にしています。

つづきは右の画像をクリックしてお読み下さい。